Lady Green's Diary

英語講師Lady Greenの日記

The Housekeeper and the Professor

The Housekeeper and the Professor (原題『博士の愛した数式小川洋子)を読了しました。とても良かった!

 

The Housekeeper and the Professor

The Housekeeper and the Professor

 

 

事故の後遺症で80分しか記憶が続かない「博士」と、家政婦の「私」、そして「私」の10歳の息子「ルート(博士がつけたあだ名)」の物語。切なく、それでいて温かく優しい物語。博士の記憶は事故の前で止まっていて、それ以降の新しい事は80分しか記憶が続かない。だから、毎日が「初めまして」で、一緒にいても80分を過ぎてしまうとついさっきまで過ごしていた時間も消えてしまう。にも関わらず、この3人の間にいつしか心の交流が生まれ、読んでいて心が洗われるような気持ちになります。

 

物語は緩やかに進み、決してハラハラドキドキするような話ではないのだけれど、それでも決して退屈することはなく、むしろこの緩やかな時間が愛おしく感じられて、お互いがお互いを思う優しい気持ちがこのゆったりした時間の流れなの中に溢れているようにも感じられてくる。

 

随所に数学と野球の話がちりばめられて、物語の中で重要な要素になっている。実はどちらもあまり関心のない話題なのだけれど、非常に上手く効果的に使われていて、ストーリーの中に非常に上手く溶け込んで物語に深みや起伏を与えている。博士もルートもタイガースファンというのが、大阪人の私には嬉しかったりして。

 

物語の設定からこれは悲しい話なのだろうかと想像していたのだけど、確かに切なくはあるけれど決してアンハッピーな物語ではなく、とてもハッピーな物語なのだと私は感じました。80分しか記憶が続かないという悲しい現実を受け入れて、その中でお互いがお互いを思いやり、その時その時一緒に過ごす時間を大切にしていく。それはとても豊かな時間であると言えます。何気ない瞬間が輝いて見える。小川洋子さんが描く3人の時間は、どれもが特別で暖かい時間に感じられる。

 

私は原文の日本語ではなく、英訳で読んだのですが、それでも物語の世界がとてもすんなりと私の中に入って来ました。読みながら、ここは訳し辛かったんじゃないかなと思う所もありましたが、上手に処理されて物語の世界を伝えていたんじゃないかと思います。アメリカ・アマゾンのレビューもチェックしてみましたが、全体的に好意的なものが多くて、とても良い翻訳であったのではないかなと思います。日本の野球の話は外国人にとってはさっぱりわからない話だったろうと思いますが、そういうことに関わらず、物語そのもを楽しんで、優しく温かく流れる時間を感じ取ってもらえたんだと思うと、日本人として何だか嬉しい気がします。日本の作品が海外でも受け入れられると、やっぱり嬉しいものですね。

 

機会があればオリジナルの日本語でも読んでみたいです。

 

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

 

 

ということで、2019年の最初の1冊はこの本となりましたが、なかなかに良いスタートう気がします。今年も良い読書ライフを送れるといいな。