Lady Green's Diary

英語講師Lady Greenの日記

Book Club: Caleb's Crossing

先日のブッククラブでのディスカッションについて今日は書いています今回の課題本はこちらでした。

 

Caleb's Crossing: A Novel

Caleb's Crossing: A Novel

 

  

 

以下、ちょっとネタバレもあるので、もしこれから読んでみようという方はお気を付け下さいね。

 

史実を元にしたフィクションということで、作者はかなりリサーチをしてこの作品を書き上げたようです。どこまでが事実でどこからがフィクションなのか読んでいて分からない部分もあるのですが、ネイティブアメリカンキリスト教文化を広げるプロジェクトの一環として、ハーバード大学に入学したネイティブアメリカンの青年が2人出てきます。この二人は実在の人物のようです。そして2人とも不運な最期を遂げてしまいます。これも事実。これが本当に悲しい。

 

物語の語り手はイギリス人宣教師の娘ベシアです。本のタイトルからすると物語の中心はネイティブアメリカンの青年ケイレブなんだろうと想像して読み始めたのですが、実際にはかなりのページがベシアの物語に割かれていました。女性の地位が低く教育を受けることを許されていなかった時代に、色々な逆境の中で何とかして教育を受ける機会を得ようと、自分らしい人生を生きようと奮闘した女性の物語でもあります。私はその点にとても共感できるものがありました。

 

この作品は人種とジェンダーの2つの問題がテーマになっていると言えます。ブッククラブのディスカッションでも議論は主にこの2つのポイントについて繰り広げられました。メンバーの一人が、主人公の白人女性よりもネイティブアメリカンの青年の方が、自由に自分の人生を選んでいるように見えると言ったのが印象的でした。いかに女性に人生の選択権がなかったを物語っています。そして、2人の間に果たして恋愛感情は存在したんだろうかというのも話題に上ってなかなか面白い話ができました。この2人が最後には結婚するというような展開を期待しながら読んだと言う人もいて、本当に2人の間には恋愛感情はなかったんだろうか、というのは私もちょっと気になっていたのです。そういう疑問に思った点について他のメンバーの意見を聞けるのがBOOK CLUBの面白いところです。で、みんなの意見をまとめると、「やっぱり恋愛感情はあったんじゃないだろうか。ただ人種の問題もあってその一線を越えることができなかったんだろう。それに、もしそういう結末を用意してしまったら史実と異なったものになってしまうので、作者はそれを避けたかったのではないか。」と言うことでした。

 

そして、作者がネイティブアメリカンの文化と白人文化とをできるだけ公平に描こうとしていること、それでいてやはり最終的には白人寄りに描かれているのではないかという意見もありました。ただ、最終的にケイレブが拠り所にしたのは、キリスト教ではなくネイティブアメリカンの信仰であったわけで、そういう意味ではネイティブアメリカンの価値観を否定してはいないのです。私は個人的に、最終的に彼に心の安らぎを与えたのがキリスト教の信仰ではなくネイティブアメリカンの信仰であったということを興味深く思いました。そしてまた、2つの文化の狭間で葛藤する彼の姿が印象的でもありました。

 

現在のアメリカではネイティブアメリカンはどのような状況にいるんだろうか?ということが気になって、アメリカ人のメンバーに聞いてみたところ「very poor」という答えが返ってきました。しかし、黒人達のように声を上げてムーブメントを起こすというようなことはあまりないようです。静かに受け入れている感じなのでしょうか?

 

自分でも気になって、その後インターネットで調べてみたところ、ネイティブアメリカン居留地というのがあるようで、そこで白人社会とは別に生活をしているようです(都市に移住する人もいるようですが)。失業率が高かったり、アルコール・薬物中毒者の割合が高かったり、という問題があるよう。

https://americancenterjapan.com/aboutusa/monthly-topics/132/

 

元々はネイティブアメリカンたちが住んでいた土地に白人たちがやってきて土地を奪っていき、そしてアメリカという国が建国されたわけで、そういった背景を考えながらこの小説を読むと色々と考えさせられるものがありました。小説の最後の方にも書かれていたのですが、ハーバード大学に進学したネイティブアメリカンは他にもいるのですが、ほとんどがみんな病気で亡くなったり悲劇的な結末を迎えているのです。

 

メンバーの一人が言っていましたが、改めてアメリカという国の持つ人種的な多様性を感じさせられる作品でもありました。アメリカ社会が抱える人種の問題は非常に根深いもので、簡単には解決できないものだと思います。一方で、日本という国を見てみると、日本社会においてそこまでの多様性はないし、それだけいろんな人種の人を受け入れるだけの準備もまだできていないとも言えます。そういう意味では、色々と問題を抱えているとはいえ、アメリカという国が持つ懐の深さも感じます。アメリカから参加してくれたメンバーのお母さんが、今アメリカで起こっている人種差別の現実を目にして、非常にアメリカ人として恥ずかしいと思うと言っていました。でも、アメリカはまだ非常に若い国で、模索しながら問題を解決していかなければいけない。そんな彼女の言葉に、そう考える人が存在することがアメリカという国の希望でもあり懐の深さでもあるのだろうなと感じました。

 

そんなふうに本の話だけで終わらずいろんな話ができていろんな意見を聞けるブッククラブという場所は、私にとってとても貴重な場所だなあと改めて思ったのでした。

 

ちなみに今回読んだ本、読みながら知らない単語が非常に多くてちょっと私には難しいなあと思ったのですが、他のメンバー(通訳をされている方)も同じようにおっしゃっていて、アメリカ人のメンバーに尋ねてみたところ、ちょっと古い表現や今ではあまり使わないような表現がたくさん使われているということでした。難しいと思ったのが私だけではなくてちょっと安心しました。こういうことが聞けるのもブッククラブならではです。