Lady Green's Diary

英語講師Lady Greenの日記

City Under Siege

先日紹介したリーディングの教材、その後も少しずつ読み進めています。心臓病の話の後は水の都ベネチアの話。

 

Reading Explorer 5: Student Book with Online Workbook (Reading Explorer, Second Edition)

Reading Explorer 5: Student Book with Online Workbook (Reading Explorer, Second Edition)

  • 作者:Nancy Douglas
  • 出版社/メーカー: National Geographic Society
  • 発売日: 2015/02/09
  • メディア: ペーパーバック
 

  

地球温暖化が進み水面が上昇するとベネチアの街は消滅するのではないかと懸念されていますが、このテキストではベネチアが直面している問題は街の水没よりもっと別の問題だとのこと。水面が上昇するなら"So go get boots"「長靴を買いに行きなさい」と言うのはベネチアの前市長であるCacciari氏。それよりもブーツでは解決されない問題がある。

  

"Boots are fine for water, but useless against the flood that causes more concern for Venetians than any lagoon spillover: the flood of tourism. Number of Venetian residents in 2012: 60,000. Number of visitors in 2012: 21 million."

長靴は水が溢れた時には使える。しかし、潟が溢れることよりもベネチア人を不安にさせている洪水、すなわち観光客の殺到という洪水に対しては役に立たない。2012年のベネチアの住民の数は6万人。2012年の観光客の数は2100万人だ。

 

どの国でもどの都市でも、観光業が栄えるというのは良い面もあれば同時に悪い面もあります。経済面での恩恵はありますが、ゴミの問題であったり環境面では必ずしもプラスではありません。観光客としての視点で街を見るのとその土地に住む人の視点で見るのとではまったく別の問題点が見えてきます。

 

公共の駐車場が洪水で浸水し閉鎖された時のことを引き合いにこんな風に書かれています。

 

"Those who managed to get to Venice surged through the streets like schools of bluefish, snapping up pizza and gelato, leaving paper and plastic bottles in their wake."

ベネチアに何とかたどり着いた人たちは、まるで青魚の群れのように通りを一斉に渡り、我先にとピザやジェラートを買い、後に紙屑やペットボトルを残していった。)

  

また、ベネチアは街を維持するのに非常にコストがかかり、生活費も非常に高く、裕福な人でなければ住み続けるのが難しい。観光に訪れる人がたくさんいる一方で住民の数はどんどん減り続けていると。

 

“'Beauty is difficult,' says Cacciari, sounding as if he were addressing a graduate seminar in aesthetics rather than answering a question about municipal regulation.

(「美とは困難である」Cacciariは市の規制についての質問に答えるというよりも、まるで美学について大学院の講義をしているかのように言う。)

 

"It's affordable only for the rich or elderly who already own houses because they have been passed down. The young? They can't afford it."

(裕福な人、親から譲り受けて既に家を所有している高齢者しか生活していけない。若者はどうか?若者たちにはそんな余裕はない。)

 

"Since December 2007, at least 10 hardware stores have gone out of business. In the Rialto market,  souvenir sellers have replaced vendors who sold sausages, bread, or vegetables.  Tourists will not notice. They do not visit Venice to buy an eggplant."

2007年の12月以来少なくとも10店の金物屋が店を閉じた。 Rialto市場では、ソーセージやパン、野菜を売っていた行商人に土産物屋が取って代わった。観光客たちは気付かない。彼らは茄子を買いにベネチアを訪れるわけではないのだ。

 

"Now, Venice gets giant cruise ships. The ship is ten stories high. You can't understand Venice from ten stories up. You might as well be in a helicopter.  But it's not important. You arrive in Venice, write a postcard, and remember what a wonderful evening you had."

今ではベネチアには巨大なクルーズ船がやってきます。10階建ての船です。10階の高さからベネチアを理解することはできません。 ヘリコプターに乗っているようなものです。しかしそんなことは重要ではありません。ベネチアにやって来て、ポストカードを書き、そしてなんと素晴らしい夕べを過ごしたのだろうかと思い出すのです。

 

その他にも色々な問題や例をあげつつ、最後はこんな風に締めくくられます。

 

"But now there is still life as well as death in Venice. Silvia Zanon, on her way to school, still crosses San Marco only to fall in love with the city again. And, assuming it is in season, you can still manage to buy an eggplant. The city's beauty, difficult and bruised, somehow survives."

(しかし今はまだベネチアには死だけでなく生もある。Silvia Zanonは(勤め先の)学校に行く道すがら、今もサンマルコを通り、再び街に恋をするのだ。茄子も、旬の時期であればまだ何とか手に入る。街の美しさは、困難を抱えて傷ついているが、それでも何とか生き残っている。)

 

何とも、色々と考えさせられるものがあります。

 

有名な観光地を訪れる時私たちはどんな目でその街を見ているだろうか。ポストカードに収められるような美しい景色、旅行会社のパンフレットに書かれた謳い文句。数日間その町に滞在し有名な場所を訪れてその空気を吸い、異国の景色を楽しみ、気分をリフレッシュさせまた自分の国へと帰っていく。でも、短い時間でいったいその国、その街の何を見たというのだろうか。広告やイメージ通りの表面的な部分だけをすくい取ってその街を体験した気分になっていないだろうか。その街の本当の魅力は、ガイドブックやポストカードで表現できるほどきっと浅くはないはず。

 

それでも多くの人にとって旅というのは、日常から離れた非日常の経験。その町の有名な場所を訪れて、綺麗な景色を見て、美味しい料理を食べて、ホテルでリラックスして、そしてまた日常に戻ってくる。それ自体は決して悪いことではない。ただ「自分が見たその街はほんの一面でしかない」ということを理解しておく必要はある。そして、私たちの娯楽のためにその街を壊してしまうことのないようにしたい。